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徒然種々
思いつくままに。

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眠れない。

 眠れない、ので。
 現パロ小話の続きを、ちょっとUPしてみました。
 ダメだしの入る前に、ちょっとあげるだけあげておきたい、かもしれません。
 
 えと、「onion puls」のsaki 様が作成された北方水滸伝現パロの世界観を、ご許可を得てお借りしましております!

「呉用、何処だ!?」 
「おい、そっちを探してみてくれ」
「ああ。―――いったん、寮に帰ってきているのは確かなんだな?」
「はい」
 
 応える声は、寮の同室者である李富のもの。
 李富は、将棋部の友人でもある。
 
「ならば、寮の近辺と考えるのが妥当だが…」
「校舎の方へ戻った可能性も捨て切れんぞ」
 
 同じく寮生で、部の先輩である袁明と童貫の声もする。
 姿の見えない呉用を、探してくれているようだ。
 
「勉強道具もそのままで、携帯や財布も全部置きっぱなしで。だから、呉用が自分の意志でいなくなった訳ではないはずです。図書室にもいなかったですし」
「分かっている」
 
 童貫の、端的な言葉。
 補うように、将棋部部長の袁明が云う。
 
「今日の放課後は、今後の活動方針について話し合うから部室に集まることになっていて、呉用自身、それを承知していたはずだ。分かっていてサボる人間ではないだろう、呉用は」
「真面目すぎることを、疎まれているほどらしいからな」
「はい! …だから、心配で」
 
 言いながら、彼らは寮の空き室や裏手の空地を見回っているようだ。
 恐らくは、“不真面目”な連中によって不当な扱いを受けている最中だろう呉用の姿を探して。
 しかし、普通なら真っ先に疑いそうな倉庫の方へはやって来ない。
 倉庫の扉には本来なら鍵がかかっていて中に入れず、また倉庫自体は高塀ぎりぎりに建って、死角になる空間を持たないせいだった。
 
 それでもとにかく、直ぐ傍まで助けが来てくれているのは確かなのだ。
 窓硝子の破れ目から、注意していれば彼らの交わす会話が幽かに聞こえてくるくらい……。
 
「…………」
 
 こうなったら、声を出して助けは呼べないまでも、蓑虫姿で思い切り暴れて、騒音を立ててやろうか。それで充分、彼らは気付いてくれるはず―――と、呉用は考えたのだが。
 
 そんな彼の頭を、サッと冷やすような会話が直後、交わされる。
 
「おい、やばいぞ…」
 
 袁明、童貫という先輩二名の介入にうろたえ、声を潜める一人に対し、
 
「心配ねえよ」
 
 別の一人が不敵に哂った。
 
「俺がぶちのめしてやる。―――今日は、何時もあいつ等にべったりくっついてる腰ぎんちゃく共がいないからな。問題ねえ」
「ぶちのめすって、でも、」
「軽い軽い」
 
 ふふんと鼻を鳴らすのは―――確か、中学剣道の全国大会で、それなりの成績を収めたことを自慢していた奴、だ。剣道部における、童貫や畢勝、豊美らの後輩に当たる。
 
「あの、童貫の奴。初段も取れねえ弱さのくせして、規律を守れだの練習をさぼるなだのと、小うるさい」 
 
 この俺に向かって何様のつもりだと、舌を打つ。
 
「あのお綺麗な顔に誑かされたデカブツがくっついてるもんだから、調子乗ってやがるんだ」
「へえ、そんな嫌な奴なのか?」
「あぁ、ただの腰抜けさ。―――せいぜい、痛いめ見せてやる。普段威張ってるからな、後輩にやられたなんて自分からは言い出せないだろ」
 
 自信満々の言い分に、
 
「ふ……ん?」
  
 余裕を取り戻したらしい面々が嗤う。
 
「それなら、俺等もやるの手伝ってやるよ」
 
 ただ殴るだけじゃつまらない。あれだけの貌だ、男でも構わない、せいぜい俺らで啼かせてやろう。
 ああ、あの可愛い貌を歪めて、泣きの入ったところを見るのも悪くない……いや、俺ならあの顰め面の先輩様の方がいいな、しかしまずは、………。
 
 背筋の凍えるような、下劣で卑しい言葉の数々。
 
「…………」
 
 呉用は、全身を強ばらせた。 
 絶対巻き込めない、と思う。同級生からの注意を疎むのみでなく、上級生の諭しさえ素直に聞けず、逆に痛めつけようという相手なら、彼は此処で騒いで袁明たちを呼んでしまってはならないのだ。
 
 
 ―――腕力の強さが、いったい何ほどのものだ。
 
 
 そうは思うが、現実問題、袁明も李富も頭は良いが呉用と同じく如何にも文化系。スポーツ全般苦手なようだし、唯一、童貫だけは剣道部にも所属している訳だが、ここにいる剣道部の一年は、その童貫を叩きのめすとむしろ狙っていたような態度で宣言している。
 下手に彼らを呼べば、呉用のみでなく、彼らまで傷つけることになってしまうだろう。
 
「…………」
 
 黙って、やり過ごさなければ。
 自分が一時耐えれば、被害を受けるのは自分だけで済む。
 ただ自分が、我慢すればいいだけのことなのだ。
 
 ―――自分さえ、黙って殴られていればいい。
 
「…………」
 
 そう、覚悟を決めようと思ったのだが。
 
 
 
 
『馬鹿にすんなッ!』
 
 
 
 
 その瞬間、とある年下の友人の顔が浮かんだ。
 まだ小学生のくせに、不思議に勁い眸で……精一杯の憤りを湛えて、まっすぐにこちらを睨みつけてくる。
 
 ―――かつて、呉用はその前で慌てて頸を横に振った。
 
『ば、馬鹿にするとか、そういう問題ではなく……っ』
 
 どうせ二人とも怪我をすることになるなら、それならせめてどちらか一人無事な方が得じゃないですか、と。
 眼差しの勁さに気圧され口ごもりながら、彼は己が道理と信じるところを訴えたのだが。
 
『得とか損とか、それこそそういう問題じゃないだろ』
『いえ、しかし―――』
『とにかくッ!』
 
 妥協のない、引き締まった貌つきで友人は言う。
 まだ、小学生なのに。
 
『俺は、アンタだけが傷ついて我慢して、それでめでたしめでたしなんて、絶対納得しないから』
 
 
 
 アンタが痛かったら、俺だって痛いんだ―――
 
 
 
 嘘の無い眼が、はっきりと呉用を見て宣言するから。
 その時の映像が、嫌になるくらいくっきりと脳裏に刻み込まれてしまっているから。
 
「…っ!」
 
 巻き込んではいけない、と。
 そう思いながらも、反射的に呉用は動いていた。毛布で厳重に包まれたまま、不自由な手足を精一杯動かし、転がる体を備え付けの棚にぶっつけた。
 
「ッ、こいつ…!!」
 
 
 ―――激烈な、落下音の協奏曲。
 
  
 金属器の、コンクリートにぶち当たる音。
 硝子が砕け、網やらゴムが跳ね、木箱が弾ける。
 濛々と埃が立ち上がり、呉用は蓑虫姿のまま、上から降ってくる物品に背や肩を打たれた。深く息を吸った鼻から土埃が入り込み、くしゃみで噎せ返る。
 
 それでも、眼もくちもガムテープで塞がれ身を伏せていた呉用は却ってマシだったらしい。
 立ったまま、げらげらと品なく口を開いて嗤い呆けていた生徒たちは、倉庫内の濁った空気をまともに吸  い込み、激しく咳き込んだ挙句に慌てて倉庫から飛び出していく。
 
 入れ替わりに、
 
「呉用!」
 
 騒ぎに気付いた李富たちが、駆けつけて来てくれた。


 

 ※ ここでいう年下の友人とは、未だ小学生の晁蓋少年のことです。

 
 
 
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