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徒然種々
思いつくままに。

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if小話。

 七夕の夜に、何を殺伐と……。
 と、自分で自分に突っこんでしまうのですが!
 
 えぇーと、その。
 あの、SSA研究会様のサイト「たんぽぽと未完成道化師のうた。」において。楊業と童貫と耶律休哥という豪華な北方軍人揃い踏みの絵を見せていただいて。……楊業には良い味方、童貫には良い味方と敵、休哥には良い敵をあげたいなあ、と……つまり、北方楊家将時代の宋禁軍総帥が童貫だったらよかったのになあという話に、なってしまいまして。
 
 書いてみたくなって、書きました。
 
 
 だ・か・ら?
 
 
 という印象の非常に強い、先の展開も後の展開もありえないif小話ですので。
 こうして、ブログにこそっとUPしてみることにしました。―――せっかくの七夕、世のCP達は幸福にいちゃいちゃさせてもらっているだろう夜に、何か非常に殺伐としているのですが。 
 書いてしまったものは仕方がないということで、UPします。
 
 
 …………こんな不良サイトに拍手を贈って下さる奇特な方、本ッ当ーに! ありがとうございます!!

 

 宦官上がり、という評判は聞いていた。
 実際それに相応しく、鍛え抜かれた敏捷さを示しつつ、その身は小柄で酷く華奢だった。
 
 宋禁軍総帥・童貫。
 
 高齢でもあるが……しかし、戦上手の噂は伊達ではなかった。
 同時に、戦好きと言われる理由も分かったような気がする。
 
 結局、北漢戦には最後まで加わらず、当然、北漢の主力だった楊家軍と戦うことも無かった。そのため、轡を並べる今度の遼戦が、楊家軍と童貫軍、互いが互いを識(し)る初めての機会だった。
 
 
 精強な、五万の軍勢。
 
  
 それは同じ宋禁軍でも、潘仁美らが率いる軍とはまるで別物だった。
 先の戦では南部の叛乱を押さえるため、後方に残されることになった鬱憤を晴らすかのように、童貫軍は前方に展開する遼の遠征軍主力四万に向かい、怒涛の攻撃をしかける。
 
 ―――側面の楊家軍が耶律斜軫軍と対峙、膠着。
 
 本隊同士が押し合って勝敗を決める形となり、互いに闘気を放ち激突の潮合が高まって……相手の動きかけた瞬間、僅かに先を行って機先を制した見事な攻撃だったが。
 しかし、
 
「……ッ」
 
 楊業は一瞬、ひやりとした。
 
 耶律休哥の軽騎兵五千が、疾駆してくる。
 前へ前へと圧力をかけていく大軍の横腹に、突っ込んだ。一度突き抜けて、引き、更に掻き回す―――それを防ぐように、宋の五万の禁軍の間から、同じく騎馬のみの一軍が飛び出したのだ。
 
 宋の旗…禁軍旗……そして、“童”の旗印。
 
 禁軍総帥の、直属部隊。
 中には、当然のように総帥本人がいる。軍の中ではちょっと異質なほど小柄な体躯が、遠眼にも際立っていた。
 
 耶律休哥は、明らかにその頸を狙っていた。
 
 錐のように鋭く突破の体勢を取って、ひと筋に戦場をひた駆ける―――そして、狙われている方も狙われていると承知で、この戦場で最も厄介な存在である耶律休哥軍を、自らを囮に誘っていた。
 
 白き狼の、頸を狙う。
 
 ―――互いが互いの大将に狙いを定めながら、二つの騎馬隊は絡み合い、蛇のように伸びてぶつかり、弾かれて離れ、また絡み合う。 
 
 
 騎馬隊同士の闘争となれば、明らかに遼の白狼に分があった。
 
 軍の精強さ粘り強さ、迅速さ……それに攻撃の矛先を一瞬で定める、獣の本能にも似た戦勘―――どれもほんの僅か、紙“半”重の差で耶律休哥軍が上回る。
 だいたい耶律休哥軍は五千、対する宋の総帥直属軍は二千騎なのだ。
 
 ただし、騎馬のみで戦う休哥軍に対し、押し合いの最中とはいえ、童貫軍にはすぐ傍に、援護に入れる余力を持った歩兵部隊が在った。
 二千騎の宋軍は五千騎の軍に追われ、包囲されそうになりながら、逆に歩兵同士のぶつかり合いの中へ五千騎を誘い込んで痛撃を与えようとする。
 
 ―――状況を利用し、獲物を追い込む小柄な老虎の狡猾さ。
 
 
 どちらが勝つか見物(みもの)、と云えなくもない。
 これが、仮に演習か何かであったならば、だ。
 
 
 軍の総帥であり、この戦の総大将でもある童貫に、このまま薄氷を踏むような危険な掛け合いをさせておく訳にはいかなかった。 
 楊業は指示を飛ばし、楊家軍の騎馬隊を援護に向かわせた。三千騎。これで騎馬隊の数は互角となり、歩兵の位置の分だけ耶律休哥軍は不利になる。
 
 ―――さすがに、耶律休哥は無理な戦に拘ろうとはしなかった。
 
 楊家軍三千騎が介入すると同時に、総帥の頸を諦めた。
 軍をまとめ、騎兵同士の戦いから離脱する。素早かった。―――後は、歩兵四万の主力が退陣で痛撃を喰らわぬよう、むしろ威嚇援護……宋軍の突出を許さない防御の体勢に移っている。
 
 
「………」
 
 
 楊業は、安堵の息を吐いた。
 
 
 
 
 
 ひと戦終わった後で。
 本陣に赴いた楊業は、禁軍の総帥に向かってこれまでしたことのない類の諫言を行った。
 
 前線に、出すぎ。
 もう少し、下がっていて頂きたい。
 
 ……ここまで歯に衣着せぬ言い方は出来ないが、それに類することを訴えた。
 
「でなければ、もう少し軍と軍の連絡を密に。―――今の状況では、いざという時に他軍が援護に入ることもままなりません」
「楊業殿麾下の軍は、さすがに精強……援護が必要とも思えなかったが」
 
 歴戦の元帥は、新参の楊業にも丁重な態度だった。
 宋将としての経歴の浅さなど関わりなく、ただ楊業が楊業たる軍人としての力量に敬意を払うといった印象である。
 
 参じた楊業には粗末な胡床ひとつ差し出されただけだが、それが童貫自身も同じこと。従者も上級将校並みの二人しか付けず、いっさいの無駄を省いた陣内の様子は楊業にとってむしろ心地いいものだった。
 軍人同士、ある程度腹を割った会話になる。
 
「いや、楊家軍に援護が要るということではなく……総大将の陣が孤立するようなことがあってはいかんだろうということです」
 
 ゆえに、他軍……この場合は楊家軍との連携を。
 
「楊家軍には、騎馬のみで構成した部隊があります。何ならそれを遊撃隊という形で動かすこともありえるかと思うのですが」
 
 総大将の陣の防御を、今少し厚く。
 至極もっともと云える楊業の言を、
 
「楊業どの、それは筋が違おう」
 
 しかし童貫はきっぱりとした口調で断ち切った。
 潔く精微な、睫毛に蔽われた双眸―――放たれる眼光は炯々として勁く、穏やかさの欠片もない。
 
「これは、帝の御親征とは異なる。私は元帥として総大将の位置にあるが、同時に貴公らと同じ一軍人でもある。―――如何に楊家軍、用兵上手の楊令公であろうとも、同じ軍人たる身を庇護される筋合いではない」
 
 きっぱりと言い放つ。
 
「……理屈は、そうかもしれませぬが。しかし、」
「しかし、ではない。―――私の麾下は、五万。決して傍を離れぬ直属の二千騎も率いている。それで討たれるなら所詮、それまでのもの」
「……おっしゃる通り、私も閣下と同じ軍人端くれ。お気持ちは理解できます。しかし、総大将が討たれれば戦には勝てぬ。自重していただきたい」
 
 同じ、軍人。
 存分な手勢を率いてなお討たれるなら、所詮それまで。
 
 その覚悟自体は軍人として小気味良く感じつつも、敢えて苦言を呈する。
 楊業に対して、
 
「なに、心配はいらん」
 
 童貫は口元だけで、ひんやりと微笑んだ。
 眼の光は、変わらず鋭い。
 
「私が死ねば、代わりの総帥はすぐに立つ。―――曹彬か、潘仁美。彼奴らならば貴公の云う通り、おとなしい良い総大将になるだろう」
「………」
「せいぜい、守をしてやればいい」
 
 
 あまり、ぞっとしない未来想定。
 ―――前線に出すぎる総大将には肝を冷やされるが、しかし童貫は確かにそれをやって無理のない戦上手でもある。
 
 彼に代わって、曹彬や潘仁美が総大将となると……
 
 
「………」
「全く戦いたがらぬ総大将も、困り者だろう?」
「……それはそうですが」
 
 楊業は、憮然と腕を組んだ。
 己より十歳以上年上、正直軍人としては高齢すぎるような相手の貌を、苦々しくみつめた。
 
 ―――いっさい共闘してくれぬ禁軍の始末の悪さは、北漢時代から身に沁みて知っているが。
 
「だからといって、童閣下が動きすぎて良いという事にはならぬでしょうが」 
「……案外硬いな、楊令公」
「あいにく、生来が愚直な性質でして」

 

 

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