[415] [414] [413] [412] [410] [409] [408] [407] [406] [405] [404]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
優しい励ましのいち押しに、心から御礼申し上げます!
閑話休題。
あの、「たんぽぽと未完成道化師のうた。」のSSA研究会様からお借りしたイメージで、書いて連載していました「黒狼と白狼」の、ラストです!
野生の気配が、飛び込んできた。
朝露に湿る山の木々、土の匂い。恐らくは仕留めてきたのだろう、狩りの獲物の血の匂い。―――伴う微香が構成するものでもあるが、しかしそれ以上に、今し方、山からもどってきたらしい休哥の……白き狼と呼ばれたかつての部下、現在の同居人の、本来備える資質ゆえに放たれる気配だった。
「………」
沸いた湯を火から下ろしかけていた童貫は、その手を止め貌をあげた。
開いた入口を振り返り、眼を細める。
まだ、暗い空に星の輝いている。
暁闇濃いうちから狩りに出ていた同居人が、小屋に帰ってきたのだ。
「………」
老いというものは仕方のないもので、指先の凍える冷たい水よりも、最近は躰が湯を求める。朝一番の童貫の仕事はだから薪割りと、粗朶を使いそれで火を起こす作業だ。
―――そして黙々と仕事を進めながら、彼の意識はふと過去へ還っていく。
既に過ぎ去った戦場の気配、もういなくなってしまった者達の息吹が、時に肌に触れる近しさで心身に蘇ってくる。姿なき影が瞼を掠め、声無き囁きが耳辺を彷徨う。
そのたび、かつては振り返らなかった過去に抱きすくめられている現在を、童貫は否応無く識(し)らされるのだ。
……既に、退役した身の上だ。こんな衰えは苦々しさよりも、もはや仕様ことなしの苦笑いを誘う現象でしかないが。
それにしても、こうして静かに老い朽ちていく身に、山の自然に溶け込んで生きる“狼”の気配は何やら眩しい。今後どれだけ歳を重ねても、きっと彼はこのまま野生の獣として淡々と老い、淡々と死んでいくのだろうと思われる。
生き物として、何処までも純粋。
限りなくすこやかで、それゆえに命の根源に厳として存在する峻険を、彼は全くの本能で会得している。
「……些かも変わらぬな、お前は」
何処にいても、と。
感歎と苦笑を交え、吐息と共に思わず呟けば、
「……?」
帰って来た隻腕の白き狼は、何故かきょとんとして瞬いていた。
※ 休哥は、別に死者をどうでもいいと思っている訳ではありません。
※ ただ、死は死、生は生、と思っているだけです。
※ ……畢勝殿が戦死したあと、休哥はあまり甘いものを食べません。
※ 滋養があるからと、元帥がドライフルーツ…とゆか、干し果実や蜂蜜を手に入れてくるので、それらはくちにしますが。
※ 餅菓子などは、食べません。それは、畢勝殿が作って食べさせてくれるものでしたから。
Comment
Trackback
TrackbackURL