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―――冷徹そのものの、眼差し。
何処までも冷やかに、冷静に戦場を見据える童貫―――その指揮によって、槍の密集体型を組んだ梁山泊歩兵部隊は五段の構えになって宋軍にぶつかっていく。
一段、二段…五段目まで押し寄せたときには、最初に退いた一段が再び詰めていて、五段目が退くと同時にまたしても槍を突き出す。―――繰り返した。
愚直なまでの、力押し。
当然ながら、数に劣る梁山泊軍には少しずつ犠牲が出てくる。
倒れていく兵士たち。
それでも童貫は揺らぐことなく、
「………」
厚い軍兵の壁に守られながら、馬上にいて戦況を見詰めていた。
その様は、ややもすると無策無能の将の典型的な有様と映らなくもなかったが。しかし、仮にそう見て批判を胸に抱く者がいても、彼女の冷たい無表情な横貌に潜む峻厳が、そんな思いを表に出すことを許さないだろう。
―――だいたい、これは単なる無策ではないのぅ…
韓滔は胸中密かに呟く。
視線で、絶えず童貫の出すであろう合図の気配を探っていた。
梁山泊の女指揮官。
童貫は冷たく、むしろ超然として戦況を眺めているようでいながら、その実、一瞬の戦機の移り変わりを追って戦闘に意識を没入させている。己の指揮する部隊から、己の指揮によって死者を出す苦痛、その死者の存在によって附加されていく重圧を微塵の揺らぎも見せず細い肩に負って……。
―――瞬間、童貫の右手が動いた。
「…ッ」
韓滔はハッと息を呑んで彼女を見詰める。
白く、細(ほそ)やかな指先が剣の如く天を突く。
そして、一気に振り下ろされた。―――愚直な攻めゆえに、精度に差のある宋の部隊間に綻びが生じ始め、陣が緩んでいる……その有るか無きかの僅かな隙を、紛うことなく刺し貫く。
「続け!」
傍らに控える副官……元宋禁軍将軍・畢勝の大音声が響き、彼の率いる部隊が一条の錐となって敵陣に吸い込まれる。
韓滔の属する部隊も、続いた。五段の歩兵部隊もまた密集体型を突破の体勢へと変え、津波となって後に続く。
宋軍の陣が、大きく揺らいだ。
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