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白い狼さんと、黒い狼さん。
独りぼっちで、荒野の掟に従って軽やかに暮らしていた白い狼さん。
たった独りで獲物を狩りながら生きている、はぐれもの。
そんな白い狼さんのところへ、或る日やって来た黒い狼さん。
有象無象の群を率いて、狩人や猟犬、罠、他の肉食獣と争いながら、傷だらけになって、でも誇りやかに生きている勁い頭領狼です。
もともとは狩人に猟犬代わりに飼われていて、その分、今は人間の智慧も習得した狡猾な狼になっている、黒い狼さんです。老獪に、何処までも狡猾に抜けめ無く生きないと、群を守るなんてとっても出来ないご時世なんです。
そんな、黒い狼さん。
狼の本来もつ爪と牙だけで生きている、奇蹟みたいに綺麗なまんまの真白い狼さんのこと、見つけて。頸裏の柔らかい、なめらかな毛皮を傷つけないようにそっと咥えて、群れのところへ連れて帰ってしまいますよ。
でも、別にだからって群に入れなんて、強要しなくて。
仲間に紹介だけしたら、時々おいで、ってぺろっと頬を舐めて。何が何だか分からない様子の白い狼さんを、そのまま荒野に帰してやります。
荒野に帰った、独りぼっちの白い狼さん。
云われた通り、時々群に遊びに来るようになります。黒い狼さんと出逢って。特に何をするでもなく、何となく一緒に辺りを散歩して。黒い狼さんに、その雪みたいな真白い毛並を、ぺろぺろ手入れしてもらったりして。
そうして、何年も何年も過ごしているうちに……
いつの間にか老いて、勁かった黒い狼さんも、段々と衰えてきてしまいます。
そうなって初めて、ずっと気儘に生きてきた白い狼さん、黒い狼さんと黒い狼さんの群を守るために、戦いますよ。自由な生き方を投げ打って、“群”に繋がれて生きることを自分から選択します。
黒い狼さんのために。
でも、そうして白い狼さんに守られて、静かに生きていた黒い狼さんが、やがて本当に老いて、死んでしまうと。
白い狼さんも、すうっと姿を消してしまうんです。
………など等という話を、想像してしまいました!
SSA研究会様の、「たんぽぽと未完成道化師のうた。」というサイト様の所で、UPされた北方楊家将・血涙と北方水滸伝のコラボイラスト!
すっごく素敵な童貫元帥と、耶律休哥のツーショット! 「超時空CP」とのことでして……。
も、くらくらと眩暈がしました!
素敵過ぎて!
その眩暈と動悸を鼻血の挙句、浮かんできた妄想……。
突発で、お話に仕上げてみました! ………以前、自由に妄想してもかまわないですよ、とご許可をいただいていますので! ← 言い訳。
あの素敵な絵に対してこれかい! と思わないでもないのですが。
けっこう、これで精一杯な感じですので……。
えと、続きに載せております。
実質、二時間から二時間半で仕上げた本当の突発急造話です(苦笑。
少々長めですので、そのうちもう少し手を入れて、中に揚げ直すかもしれませんが……。
ほう、と童貫は小さく息を呑んだ。
眼前で、展開される光景。
賊徒の群を追い込み、次々と討ち取っていく宋の地方軍の姿。……乗っている馬はお粗末なもので、到底精兵とは言い難いが、その分却って指揮の巧さが際立っていた。双方の馬の脚力、兵の武力を測りながら、被害を出さずに敵を打ち崩していく。
地方軍は賊徒の半分ぐらいの人数しかいなかったが、童貫ら巡視の禁軍が手を出すまでもなく、決着がついていた。
最近、この土地では性質の悪い賊徒が暴れていて、村落を焼き払い、女を嬲り略奪を行い、もはや抵抗もできない村人たちを面白半分に殺しまくっていると聞いている。―――賊徒を倒すのは地方軍の任務だが、正直、巡視する先である以上、出くわせば狩らねばならぬかと考えていたのだが……。
「拾い物かもしれませんね」
「そうだな」
副官として傍らにある畢勝の言葉に、童貫も頷いた。
あの一隊の、指揮官。それに、その指揮官のなかなか大胆な作戦ぶり―――この辺りは、管轄区域の入り混じる難しい土地柄である―――を許した上官。
麾下に加えたくなる人材だ、と考えていた。
その後。
近くの軍営についた童貫は、最初は居丈高に旗も上げない怪しげな軍を問い詰めてきて……相手が禁軍総帥・童貫と知った途端、真っ青になって卑屈に対応し始める責任者の姿に、頸を傾げた。
どう見ても、小者である。
「先ほど、軍管区の境界附近で、争っている者達を見たのだが……」
「あ、あのっ、不埒者どもがお眼に入りましたか!?」
「……不埒もの?」
「はい、あれは私の命じたことではないのです! 下らぬ賊徒など放って置けと何度も命じておりますのに、あの上官を上官とも思わぬ、ごろつき共は何時も何時も…っ!」
「…………」
「それというのも、極めつけの……ろくに素性も知れぬ狂犬のような男がいるせいなのです!」
「? 素性も知れぬ、だと?」
「はいッ」
青く赤く、くるくると慌しく顔色を変えつつ責任者の訴えたところによると。
その狂犬のような男、というのは……数年前、徴兵によって地方から集められた男の一人、であったらしい。らしいというのは、徴兵された一団が軍にたどり着く前に、突然吹き荒れた大嵐による山崩れに巻き込まれたせいだった。
突如、予測もつかない大荒れの嵐。
大規模な山崩れは新兵の一行を丸呑みにした。その後、大量の土砂の端で半ば埋もれつつ、発見されたのがその男だったらしい。
男は、その容貌からしてまだ年若く……しかし、体験した恐怖のせいか、全身の毛が真っ白に変じていた。
そして、降り積もる土砂の下から救出される以前の全ての記憶を、失っていたのだという。
分かっているのは、男が唯一憶えていた「きゅうか」という音のみ。どうやら男自身の名を指すらしいが、それが姓名なのか字なのかその一部なのかすら、判然としない。
徴兵の担当者も、恐らくは男と郷里を同じくするだろう者達も、皆土砂の下で息絶えていたのだ。
その「きゅうか」。
兵としてはそれなりに才があり、出世もして、現在は小隊長の地位にあるのだが……
「狂犬の如きと言いますか、道理を弁えぬ狼の如きとでも言いますか。全く、素性知れずの不審者でありながら、情けをかけて一人前に軍に置いてやっているというのに……僅かばかりの才を鼻にかけ、上の指示を聞こうともしません」
「…………」
「不思議と下っ端には慕われておるようですので、何かの抑えにでもなればと小隊長にしてやったのですが、それすら恩に着るでもなく。―――命令違反のたび、きつい灸を据えてやっているのですが、一向に懲りようともしないのです!」
眼の前にいる禁軍総帥の存在を忘れたかのように、如何にも忌々しげな、唾棄せんばかりの口調である。
しかし、見据える童貫の視線に気付いて、慌てて愛想笑いを浮かべ直す。
「と、申しましても、そんな愚かしい男に何時までも好き勝手をさせておくつもりはありません! 今度という今度は、あの男も自分の所業を心底悔い改めることになるでしょう!」
あの世において、と。
薄笑いで付け加えられた台詞に、童貫は片眉を上げた。
軍管区と軍管区の狭間を行き交い、村々を荒らしまわる賊徒を追い立て、討ち取る過程において、本来属する軍の管轄区を越えて、動き回った。
ひとつの轄区域だけで賊徒を追っても、どうしても取りこぼす。討ち取っても討ち取っても根絶やしに出来ず、膨張していく賊徒の根を一気に断つための思い切った処置だったようなのだが。越境された軍管区の方から、賊徒を平らげてもらった謝礼ではなく、……まあ当然のことだが、抗議が来た。
それをむしろ奇貨として、この軍の責任者は手に負えぬ“狼の如き”部下を、さっさと明日にでも処刑してしまうつもりらしい。
「…………それで?」
呆れたような沈黙の後、童貫は短く尋ねた。
「はい? それで、とは……あっ、あぁ、元帥閣下の宿舎は只今―――」
「我々は野営する。宿舎など不要」
「は、はい!」
「その、狼のようだとかいう男のことだ。―――何処にいる?」
軍営の地下に押し込められた“狼”は、かなり弱っているようだった。
童貫は副官の畢勝を供に、案内の兵も直前で返して、二人きりで地下へ降りていた。むろん、あの責任者は最初から同行させていない。
冷たい、夜の闇の底。
手燭の明かりを伸べてみれば、“狼”は石畳へ無造作に転がされたまま、ぐったりと力無く蹲っている。
―――無理もないだろう。全身、傷の無いところは無いのではないかと思えるほどに殴られ、蹴りつけられているようだった。挙句に手当てもされず、放り出されている。
傷ついた頭部から、紅い流れが幾筋となく乱れて床に滴っていた。
血と泥にまみれた戦袍は破れて捲れ上がり、狭間からのぞく腹部は、棒で滅多打ちにされてどす黒い紫に変色している。……どのような罪であれ、棒打ちは本来なら背中に向けて行われるはずなのだが。
上役に、心底憎まれていたのだと。
はっきりと見て取れる。
明日の処刑を前に、上役の許可――というより、推奨――を得た兵士達によって、好き放題の私刑にかけられた様子があからさまだった。
畢勝の眉を顰める気配が、背後にいる童貫にも感じられる。
それでも、
「随分と手酷く、やられたものだ」
思わず呟いた童貫の、その聞き慣れない声を聞きつけ、
「…………」
半死半生の姿のまま、生乾きの血液で粘る睫毛を上げて。
こちらへ、鋭い視線を向けてくる。
「ふん」
その眼が、童貫は気に入った。
「きゅうか、と名乗っているそうだな」
「…………」
「手柄をたびたび立てても、身許の詳細が不明であること、それに命令違反を繰り返すことから、未だに小隊長のまま。おまけに今度こそは、年貢の納め時になりそうだ」
「…………」
「しかし、部下からは随分と慕われているらしい。……此処へ来る前に、お前の身柄を処刑前に何とか奪い取ろうと、計っている連中を見かけたぞ」
事実である。
賊徒の被害から救われた、この地方出身の兵士が中心になってはいるようだが、上の歓心を買いたいという者達とは異なる、血の熱い男たちの指示が“狼”にはあるようだった。そのおかげで、これまで処刑されずにやって来れたという側面もあるのだろう。
「上の命に従わぬのは、お前だけの特徴ではないようだ」
揶揄するような童貫の言葉に、
「……あれら、は、勘違いしているだけだ…」
横たわったまま、真っ白い毛並を自身の血で紅く染めた狼が低く唸る。
僅かに混じる、獰猛な響き。
「俺を、自分たちの上司だと、思い込んでいる……。俺さえ死ねば、問題は、無くなる」
「そうか?」
童貫は少し笑った。
救出を計る者達と聞いてすぐに思い当たる節のある様子からして、下の把握に抜かりがないのだと分かる。庇おうと必死に口数を増やすところも、何やらいじらしいと言えばいじらしい。
「そんな風には見えなかったが」
わざと、少し意地悪く言った。
「お前を殺してしまえば、軍に復讐でもし始めそうな形相だったぞ」
「…………」
「―――まあ、いい。復讐の対象になるのはこの軍営の上層部だろうからな。私には、関係がない」
「 ? 」
「私は、禁軍総帥の童貫という」
見上げる眼が、初めて大きな驚きに見開かれる。
小気味よさを感じながら、童貫は語りかけた。
「おい、きゅうか」
「…………」
「お前は、これから禁軍の将校になるのだ」
「……!?」
「下らん罪で叩き殺される前にお前と出くわせたのは、お前と私、どちらにとって幸運だったのだろうな?」
言い置いて、さっさと身を翻す。
童貫の後を追って起き上がろうとして、
「…っ」
起き上がれずに、“狼”は這いつくばったまま呻き声をあげている。
その有様からして、少なくとも骨の二、三本はいかれてるようだ。ただ、直ぐに伸びた様からして、脚はやられていない。内臓も、大丈夫だろう。頭蓋の中身が危ないといえば一番危なそうだが、その点については成り行きに任せる以外どうしようもない。
「手当てしてやれ」
童貫は、畢勝に言いつけた。
「出立は明後日早朝。……お前にはまだ馬は与えられんから、お前は歩兵と共に自分の脚で走らねばならぬ。遅れれば、それまでだ」
「…………」
「私の軍では、命令違反も行軍の遅滞もいっさい許さん」
「…………」
「―――いいな?」
こうして、地方軍で拾った新しい将校。
剣の腕は立つし、歩兵、騎馬隊、どちらも巧みに動かすが、特に選りすぐった軽騎兵を率いさせてみれば、畢勝、豊美は愚か、童貫自身も密かに舌を巻くほどの鋭い指揮を見せる。
―――童貫は幾度か、歩兵と騎兵の混成部隊、また軽騎兵を率いて同数で彼と対峙し、力で以ってねじ伏せた。
しかし、何かを習得するというより、もともと身に刻み付けられていた何かを取り戻すように……いや、まるで呼吸するように自然に闘い始める彼を、凌駕し続けるのは難しい。
今ではもう、童貫も同数の軽騎兵同士の争闘で彼に打ち勝つことはほぼ不可能に等しいと見極めをつけている。―――実戦になれば、話はまた別だとは思っているが。
童貫は彼を、休哥、と呼んだ。
建国の頃、宋を苦しめた遼の将軍の名前だ。
白き狼とも呼ばれたというその将軍は精強な軽騎兵を率いていて、そして何故か生まれつき、雪のように白い髪をしていたのだという。
対して、彼の髪の白さは、いちおう、記憶を失うほどの天災に巻き込まれた恐怖ゆえ、ということになっている。
しかし、記憶の無い彼が自分の“名”として唯一記憶していた音が、その遼将の名と同じ「きゅうか」であったこと。理由はどうあれ、ともかく白い髪をしていること、騎兵の指揮に才を見せること。
それらの理由から、童貫は「きゅうか」の音に「休哥」の字を当てさせたのだった。
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