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連載している話の、続きです。
女体童貫さま。
剣を構えた楊令、対峙する豊美。
その背後で縛られ、馬に乗せられている童貫。
豊美の部下たちが、三名の周辺を取り巻き守護している。
しかし、やはり此処は戦場なのだった。禁軍の精鋭軍のうちに数えられる豊美部隊の兵士らであっても、その殺伐たる喧騒を完全に除外することなどできようはずもない。
―――そこに、“喧騒”の固まりが暴れこんできた。
尻を傷つけられ、乗り手の制止も振りきって狂奔する馬一頭。
さすがに暴れ馬をまで防ぎきれず、逆に押されて人垣が大きく乱れ、包囲の一角が崩れる。
この機会(チャンス)、童貫は逃さなかった。
両手は拘束され、使えない。
鞍の上に積まれていて、足は完全に宙に浮いているので、踏みしめる足がかりもなかった。
それでも、
「…っ!」
童貫は無理矢理、膝を腹部へ抱え込むようにして前へ体重を移し、跳んだ。
跳んだというより、転がり落ちた。
―――暴れ込む軍馬の、蹄の前へと。
童貫を救い出すまで、楊令は此処を動かないだろう。
しかし、この指揮官の少ない戦場において、有能な将校である楊令が些事に囚われているというのは致命的だった。
手っ取り早く楊令を本来の戦に戻すには、童貫が囚われの身でなくなることが不可欠らしい。
ならば、個々人の思惑など踏み散らす戦場の高揚へと這いずり込み、それに紛れて何とか身を隠すか―――それとも、いっそひと思いに死ぬか。二つに一つ……どちらかを、選ぼうと童貫は決めたのだ。
進んで死のうとは、思わない。
本当なら、豊美に連れ去られるなら連れ去られるで別にかまわなかった。
―――後宮から出奔したのだ、今さら宋に戻されれば処断されるだけだというのは容易に推測がつく。しかし、それならそれで仕方がない。
楊令は童貫を救おうと必死になってくれているようだが、別に童貫自身は何処で生き、何処で死んだところで……どんな境遇に堕ちたところで、結局自分の何が変わる訳ではないと思っている。
この梁山泊での生活は童貫にとって決してつらいものではなく、むしろ好ましいものだった。しかしそれでも、奪われて特別悲しいという訳ではなかった。
だから別に―――本音を言えば、戦に敗れて双頭山の塞が潰えようがどうしようが、構わないという気もする。
ただ、―――あの娘の泣き貌が瞼の裏にちらつくから。
涙を零さず、烈しい眼をして。
心のなかで泣く………呉用の貌が。
この戦に敗れて双頭山を奪われれば、きっと呉用は泣くだろう。梁山泊を維持していくための、此処は切所とも云うべき山塞なのだから。
―――そんな、梁山泊にとって大切な、この戦を自分の存在が毀してしまうぐらい、ならば……っ
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