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さくじつより、眠気がだいぶましです。
でも、眠いです。
とゆ訳(?)で、今日の更新だけ。
えと、折り返し以下で…えぇと、その「onion plus」のsaki 様から設定をお借りした、女性童貫様と女性呉用センセの話です。
まるで赤子のようだな、と。
背後からひっそりと落とされた静やかな声に、呉用は胸を突き刺された気がした。
「…………」
反論する言葉一つ思いつかず、くちを強く噛みしめて俯く。
抱いた志を踏みにじられ、その志を託した無二のひとを…唯一と密かに心で決めた大事な大事な、この世の何より大事な人を、殺されて。
……殺された、のに。
その事実に対して何をする術もなく。仇ともいうべき宋国の後宮に囚われ、その主の慰みとされる日々。屈せぬと誓ったところで、ただ細かなことを考えるしか能の無い自分は、結局のところ一人では何も出来ない。
恥を知るなら、せめて自害でもすれば良かったのだろうか…、と。命を無駄に費やすことを愚かと断じた考え方も、今となってみれば単に死を怖れた怯懦の心でしかなかった気が、してきてしまう。
ならば改めて、自害してしまえばいいかというと―――それでもやはり、何の役にも立たない形で命を捨てることは、納得出来なくて。
―――まったく、軍師が聞いて呆れる。
これではまるで、ひたすら駄々を捏ねて他人に面倒をかけるばかりの、無力な赤ん坊と同じではないか。
「…………」
泣けば尚更、情けない……
そう思いつつも、奥歯を噛みしめて堪えながらも―――それでも呉用は、睫毛の先に涙の雫が溜まっていくのを留められなかった。
みっともなく、肩が震える。
「……肌の話だ」
そんな、暗く沈み込む呉用の姿を何と思ったのか。
流れる黒髪を丹念に櫛で梳き始めていた童貫が、言葉を継ぎ足した。特に慰める風でもなく、やはり静かに。
たった今、手ずから香油を塗布したばかりのほそい項(うなじ)、温かく豊かな脹らみを湛えた胸元に視線を落とす。
体温にぬくもった香油がほのぼのと、あるか無しかの花の香りを立ち昇らせている。
「……え?」
「赤子のような肌だと、言ったのだ」
虚を突かれ、瞬いて振り返る呉用の眼に、何時もどおり淡々として、冷やかにさえ見える童貫の黒眸が映る。
その小造りの、白皙の面を薙いだような無表情に保ったまま、童貫は続けて唇をひらく。薄っすら淡く紅を含んだ、花莟(つぼみ)の如き唇。
―――事実のみを指摘する、端的な言葉。
「生まれたての赤子のような、きめ細かいなめらかな肌をしている」
衿元から覗く、呉用の肌。
手入れも充分でなく、幾分日灼けした手足の皮膚と異なり、生来の色白さをそのまま残している。肌理の詰んだ、上質の練り絹を思わせる肌だった。しっとりと何処までも黒く豊かな黒髪との、対比(コントラスト)が美しい。
―――薄茶けたところのない、黒の色彩は呉用も童貫も同じ。
しかし、簡素な飾りをつけて流した童貫の髪はコシが勁く、鋼の刃を思わせる硬質の光を弾いて煌めく。
それがさらさらと細い頸すじから肩を零れ、背中から腰近くまで滝のように流れて揺れる様はまばゆく、何処か華やかでさえあった。―――それが、甘く浮ついた雰囲気に結びつかないのは、童貫自身の性質ゆえだろうが……。
他方、呉用の黒髪は深い。
射干玉の夜を融かし込んだような色合いで、潤い豊か。春の宵闇を思わせる艶やかな漆黒が、量もたっぷりと手巻いて流れ落ちる。今ちょうど梳られる途中の、その流れる黒髪の衾から覗く肌は見る者の眼にいよいよなめらかに白く、匂やかだった。
童貫はただ静かに、その事実を評していた。
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